食品生産者の苦悩と怠慢

しばらく前、餅を買った。
何ら珍しいことではなく、よく買うので、それ自体は何の話題性もないのだが、しかし、思いもよらぬ事態になったのだ。

餅の購入先は、今までは、たまーにスーパーで見かけると、袋詰めされた餅を買っては、冷凍しておき、チョビチョビと食べていた。
しかし、いつも「うまい餅食べてーなぁ」と思っていた。

一時期、本気で、臼と杵をヤフオクなどで買おうと思っていたのだが、保管場所がないし、大量についても食べきれないし、大してやりもしないだろうしってことで、却下。

そこで、ネットで「注文が来てから餅をつきます」というのを見つけて注文してみた。
最初に頼んだところは、京都のお餅屋さん。
これが、かなり柔らかいお餅で、焼くのに手こずったが、コツを掴んで美味しくいただくことができた。
これに気を良くした僕は、同じところで頼めばいいのに「今度は、違うところに頼んでみよーっと」と思って、宮城の餅屋さんの餅を頼んだ。

しかし、これを焼いて食べてみたところ「んっ?なんか変な味がする」香料のような・・・?何だこの味は?
餅を丸める時に、ハンドクリームでも付いたまま握ったか?

もしかして、自分の手に何かついていたか、気のせいか?何だかわからなかったので、そのまま冷凍庫へ入れて、しばらく手をつけないでいた。

その後、餅が食べたくなって、再び例の餅を出して、今度は、表面を洗ってから焼いてみることにした。
で、洗っていると・・・何じゃ!泡立ってる!?
これは、石鹸なのか?

匂いを嗅いでみると、何となく石鹸のような匂いがする。
やはり、気のせいでも、僕のせいでもなく、餅のせいだ!

ハンドクリームなのか、石鹸なのかわからないけど、こうしたことに生産者が気がつかないでいたら大変だと思い、販売サイトの管理者にメールをした。
しかし、3日経っても返信なし。

「まあ、そのまま捨ててしまえばいいか」とも思ったが、パッケージの裏に生産者の法人名、住所、電話番号が書かれていたのを発見。
ググってみると、田舎の小さな米菓工場だった。
「これは、伝えてあげるのが親切ってなものだろ」そう思い、電話してみた。

すると、原因は、石鹸でもハンドクリームでもなく、カビ防止用のアルコールとのことだった。
「なんだぁ、知らず知らずのうちに、手を洗った時の石鹸の匂いがついたとか、ハンドクリームが残ってしまっていたとか、そんな、些細な人的ミスじゃないのかぁ」と、半ば拍子抜けした。

生産者さんによると「賞味期限を1ヶ月くらいは確保しないといけないので」とのこと。
ショックだったのは「道の駅などでも置いている・・・」という言葉。

僕が買ったのは、17個入りパックを2つ。
お値段、送料込み3,990円

送料を890円と考えて、1パック1,550円ということになる。
道の駅で、1パックの餅を、この値段で売っているとは思えない。

ネットで注文する連中が、どんなものを求めて、餅なんかをわざわざネット注文するのかということを分かっていないということがよくわかる。
とはいえ、そんなことを想像しろという方が難しいだろうとも思う。

餅にカビが生えるのは当たり前。
しかし、それでは売れない。
カビを防止するためには、添加物や防腐剤が必要になってしまうということなのだろう。

生産者のそうした苦悩もわかる。
しかし、同時に、そうしたことは怠慢の現れでもあると思う。
本物を売るのか、偽物を売るのか、そうした違いをはっきりと示さず、偽物を本物のように売っていたのは、許されるべきことではない。

スーパーに並んでいるような食品のほとんどは、偽物だ。
ベーコンと書いてあっても、燻煙などしていない。
豆腐と書いてあってもにがりを使っていない。
梅干しは、梅を干したものではない。
そばと書いてあっても、中身のほとんどは小麦粉だ。
こんな偽物ばかりが並んでいる。
本当は、ベーコン風とか、豆腐風とか、梅干し風と書かなくてはならないだろう。

今回、僕は、そんな偽物が嫌で、高額な代金を支払って本物であろうものを買った。
しかし、中身は、偽物をいかにも本物のように見せかけて売っていた詐欺的商品だったのだ。
生産者は「アルコールに浸けていないものを送ります」と言ったが、実際、もち米からして、大したものを使っていないのは、アルコールの不味さを差し引いてみても分かった。
米のうまさなど全く感じなかったのだ。(前回買った京都の餅はうまかった)

結局は、道の駅で売るような商品を、高い代金を支払って買ったことには変わりはない。

現代では、何を選べばいいか、何を食べればいいか、本当に分からなくなっている。
僕は、野菜一つとってもスーパーで買いたくなくなってきている。
かと言って、自分で作ることも出来ていない。
ネットで、本物を探して、いろいろと注文もできるが、すべてをそうしたら、エンゲル係数は半端なく高額になってしまう。

生産者も苦悩があるだろうが、消費者も厳しい。
生産者と消費者は、どこかでバランスを取らなければならない。
今は、大手も零細も、ほとんどの会社が偽物を製造している。
そして、消費者も、偽物ばかりを買っている。

しかし、本物を作っている会社もある。
ただ、数が売れなければ、単価を上げるしかない。
そうなると、買いたくても買えない消費者も多くなってしまう。

消費者が、もっと本物を買うようにし、本物の生産者は、ギリギリのラインで価格を落とす努力もしなければならない。
本当に、難しいところだが、少しずつでも本物が増え、多くの人が本物を買うようになり、価格が下がり、いい循環ができていけば良いのだが。

そんな時代は、僕が生きている間には来ないかもしれないなぁ。


P.S
しばらくしてから、新しい餅が送られてきた。
今度は、アルコールなどには、一切浸けていないということで、かじってみた。
・・・餅の味だ。

前回は、餅の味もほとんどしなかった、ハッキリ言って安物だったが、今回は、もち米を変えてきたのか、ちゃんと餅の味がした。
それでも、前回買った京都の餅の方が断然うまかったなぁ。
値段も大して変わらんし。

-MARK'S BRAIN:思考, MARK'S LIFE:日常