描いた訳ではございません。素材です。本文中には、画像のような誘導員は出てきません。

僕が出会った、神業誘導員の昔話

それは、道路工事の交通誘導員のことだ。
道路工事の現場に行くと、車を停めたり、行かせたりしている人のことである。

もうずいぶん昔の話になる。
地元、浜松にいる頃のこと。

ある時、不思議な誘導員に出会った。
彼は、背が高く、マッチョな体つきで、日に焼けて真っ黒な肌をしていた。

そして、誘導する際、まるで体操をしているかのようなアクションで誘導しているのだ。
普通、誘導棒を振るだけの人が多い中、全身を大きく使って表現している。
マジ、オモロイ。

それが、ギャグ狙いではないところが実に良かった。
本当に、真剣に、大きなアクションで、しかも、無駄な動きはない。
余分な動きを加えて、運転者を混乱させるのではなく、非常にわかりやすいように、大きく表現をして誘導する。

車を運転する人たちの多くが経験したことがあるであろう「行っていいのか、止まるのか、分かりにくいんだよ!!」という不満。
その彼の動きは、それが、一切ナッシング!であった。

止まれの指示は、仁王立ちで、車の真正面に立ち、誘導棒を両手を伸ばして前面に押し出し、それをゆっくりと上下させている。
分かりにくい誘導をする人は、誘導棒を前に出してはいるが、それを認識させるために、フラフラと揺らす。
その、揺らす行為が、行けということなのか、止まれということなのかが分かりにくい。

だが、真っ黒マッチョな彼のアクションは、非常に分かりやすく、決して誰もが間違わない。
横にまっすぐ伸ばした誘導棒を、しっかりと両手で支えているため、フラフラしていないし、かっちり水平が保たれ、それを、ゆっくりと上下に動かしているため、認識も容易だ。
もちろん、先頭で停止した時には、その姿勢のまま、深々と頭を下げる。
が、その際も、誘導棒の高さが下がることはなく、水平を保ったままである。スゴイ!

今度は、発進時。
水平にしていた誘導棒を垂直にし、片手に持ってまっすぐと真上にあげる。
そして、誘導棒で円を描くように大きく進行方向へ振るのだが、その際、体全体を使う。
仁王立ちだった足の、片足を進行方向へ出し、誘導棒を下に回す際、ヒザを曲げてより低く回転するように回す。
今度は、誘導棒が上に上がる時には、足を戻し、誘導棒が高く回転するように回す。
その回転は、半径を最大化させるように、腕はまっすぐに伸ばされているのだ。

それも、ぐるぐると回すだけでなく、一回転したら、水平状態のところで一旦停止させ、進行方向を指す。
そして回す、進行方向を指して止める、ということを繰り返しながら、スクワットをするように体を動かしていた。

さらに、誘導棒を回す際、顔は、まず車両の方を向きグルリと棒を回して180度回転し、進行方向を指す際には、進行方向に顔を向ける。
もちろん、満面の笑みである。

まあ、彼にとっては、トレーニングにもなって一石二鳥だったのだろうが、誘導される方も、非常に分かりやすく、且つ、オモロかったのである。
初めて会ってから、その後、別の現場で二度ほど見かけた。
だが、その後は、出会うことがなかった。

異質な彼を受け入れる警備会社がなかったのではないか?と推測してしまう。
交通誘導員というのは、建設会社の所属ではなく、警備会社の所属であることが多いらしい。
多くのドライバーが目にする交通誘導員のほとんどが、適当な誘導で、非常に分かりにくく、仕事のやる気も感じられない、定年後の老人がやっているというような印象を持っていると思うが、そんな職場で、やる気満々の若者が馴染めるはずもないだろう。

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